photo by S.Nozaki
☆55年前と変わらぬ風景が其処に
フーテンの寅さんがお気に入りで、時折映画のロケ地を訪ねている。此処八ヶ岳南麓から日帰りでぶらりと足を運べる場所としては、地元北杜市・小諸・上田・木曽路・浅間山・恵那などがある。先日は小諸の花見を楽しみがてらロケ地を探し回った。第40話の中で寅さんが惚れた女医が勤める「小諸病院」を探し当てた時は小さな宝物を手に入れたような気分に浸り、嬉しくてYouTubeで発信してしまった。寅さんと同様単純な男である。頭を叩くとコーンと良い音がする。空っぽだから。
今回は、木曽路の奈良井宿を訪ねた。映画では初期の第3・10話でロケ地として使われ昭和感たっぷりの演出となっている。此処は日本最長1キロ以上続く宿場町が昔の木造づくりのまま残っていること、中山道最大の難所と言われる「鳥居峠」の麓ということなどから最近人気が上がっており海外からの観光客も増えている。妻籠・馬籠と比べると地味な存在だったが町を挙げての保存努力により平成に入り様々な賞を獲得している。寅さんのロケ地でなくともいつかは訪れたいと思っていた。
塩尻からの中央西線各駅停車中津川行き二両編成は満席で三分の一は外人さんだった。ほとんどが奈良井駅で下車したためワンマン車掌は大忙しで長いこと停車していた。Suicaが使えないんですよねぇ~。ごった返す木造の駅舎を出ると宿場町らしい味のある駅看板が目につく。そして其処から宿場街道が奥まで続き、その両側には少し黒ずんだ木造の家々が立ち並んでいる。更に遠くには難所鳥居峠の越えの垰山が見える。タイムスリップが体験出来る町だ。
<1キロ続く宿場町>
・時代劇などいろいろなロケに使われるのが分かる

photo by S.Nozaki
ブラブラしていると、英語・ドイツ語・フランス語・おそらくアジア系の言語・北欧系らしき言葉が聞こえてくる。中国語は少ない。皆さん写真や動画を撮るのに夢中、お土産屋さんを冷かしている人達もいる。登山らしき格好をしている人達もいる。おそらく鳥居峠を越えて薮原宿まで歩いて行くのであろう。私は先ず映画の舞台になった「ゑちごや」旅館を探す。ほどなく見つかった。220年以上も続く旅籠で今も宿泊出来るそうだ。映画では田舎の宴会場所として使われており、その外見は今も全くそのままなのには驚いた。何しろ映画は55年以上前に撮影されたのだから。町並み保存のために皆さん並々ならぬご苦労をされているのが窺い知れる。
<フーテンの寅さん第3話の一場面>
・看板は「ゑちごや」となっている

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<現在の「越後屋」>
・二階の格子や吊り照明は当時と全く同じ

photo by S.Nozaki
家並みはどこも黒っぽい。板、柱、桟、屋根、おそらく保存のために渋墨(しぶずみ)塗だろう。流石、漆器の産地、木曽の檜でも有名な地域だけのことはある。どこぞの有名建築家設計のカビが生える木造建築とは年季の入れ方が違う様だ。どこもかしこも造りが引き締まっていて手入れが行き届き、見ているだけでも凛とする。先ほどの「ゑちごや」も築200年を超えてなお何にでも耐えそうながっしり感がある。観光向けの表通りだけではなく、裏の一般家庭も同様の造りだ。こうした一体感が「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている所以だろう。
また、100メートル程の間隔で公共の水場が置かれている。今は飲むには沸騰させてからと注意書きがあるが、昔はそのまま飲料・炊事に使用していたのだろう。そして其処には消火用のバケツがいくつも置かれている。今も木造の建物を守るために昔ながらの水場の知恵もそのまま残している訳だ。
<あちこちに配置されている水場>
・水量は大変に豊富である

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感心しながらあちこちを覗き歩いているうちに小腹が空いてきたので町外れにある蕎麦屋の暖簾をくぐった。此処でも外国語が聞こえてくる。お薦めの「山賊焼そばセット」と生ビールを注文。日本酒の木曽の中乗さんを追加。山賊焼は中信地方が発祥と聞いているが、山梨や岐阜にも広まっている様だ。山賊はモノを「取り上げる」から「鳥揚げる」とひっかけて山賊焼とか。本当かな。山賊なんて何処にもいたんだから日本全国に山賊焼があっても良さそうだけど。他にも謂れがありそうだな。奈良井の山賊焼は小ぶりだった。この地の山賊は遠慮がちなモノ取りだったのかな。
<山賊焼そばセットと木曽の中乗さん>
・観光地にしては良心的なお値段でした

photo by A.Nozaki
ほろ酔い気分で帰路に着き、塩尻で途中下車。軽く塩尻ワインを味わっての各駅停車の小さな旅でした。寅さんは一年中こんな旅をしていたんだろうな。また寅さんの跡を追って次回は上田辺りにでも行ってみますか。
<塩尻から望む北アルプスの峰々>
・この旅情感があっしを次の小さな旅へいざなう

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