果樹園にレジェンド登場!

生活と民俗や風習
<実り始めたさくらんぼ>

photo by S.Nozaki

☆シニアパワーが活躍する高根町

私がパートで働くさくらんぼ果樹園では、春の授粉期になるとレジェンドと言われるシニアが元気に出勤してくる。仕事は、授粉・摘芯・摘果・袋掛け、そして収穫・販売と一年で最も忙しい時期に大車輪の活躍するのが彼らである。自分の手足の様に昇降機を扱い高所作業をこなし、脚立を器用に使いあらゆる所に手を伸ばす、最盛期には朝7時から収穫を始めその日のうちに出荷してしまう。レジェンド軍団恐るべし!人生経験豊富な諸先輩は仕事のコツを心得ており、権力や地位にしがみつくシニアと違い「現場」のお手本である。こういう方達ならいつまでも残って欲しいと思う。皆さん「いろいろ身体にガタが来てるよ」と呟きながらも、こちらが圧倒される闊達さだ。

<レジェンド Kさん>
・黎明期から果樹園を支えてきた方です

photo by S.Nozaki

山梨県は男女とも健康寿命が常に全国トップクラスなのは、こんな働き方を出来る環境があることも一因ではないかと思ってしまう。繁忙期になると求人雑誌INDEEDなどには時給1,000~1,200円程度での果樹園等のパート募集が多量に出てくる。若い人のアルバイトもいるが、そうした需要に応えるのは私の様な定年退職者・子育てを終えた主婦、自営業をやりながらその仕事の合間を縫ってデュアルで働く人等が集まる。パートを掛け持ちしている人もいる。男女問わず高齢の方が多く、身体が動くうちは兎に角何かをやろうとする意欲があり、そして、そうした人達が働く受け皿が果樹関係の仕事となっている。なお、機械化の進んだ米作ではこうしたパート募集はほとんど見かけない。
我が職場の特徴は、①身体(含む脳味噌)を動かす、②融通が利く、③休憩時間のコミュニケーションが秀逸かつ濃密、の三つだ。

果樹園の仕事だから当然軽い肉体労働だ。歩く、モノを運ぶ、枝を切る、花を摘む、機械を操作する、道具を手入れする等々、身体も頭も使うのだ。昇降機で高所作業をする時は、ポジション取りと細かな移動に結構繊細な操縦を要求されるし、不用意な操作は怪我にも通じるので適度な緊張がある。また、例えばサクランボの収穫では傷付けない様にもぎ取る丁寧さが必要とされる。機械化が絶対無理な仕事が多く、したがって様々な仕事経験が豊富な引退シニアが、適度な心身への負荷で十分活躍できる職場だ。健康にも良い。果樹は付加価値が高いし、日本のそれは海外でも評価が高いので、この領域でシニアがドンドン活躍するレジェンド社会を描けるのではないだろうか。

<レジェンド Yさん>
・私のお師匠さんでもある

photo by S.Nozaki

勤務形態はかなりフレキシブルだ。無理をせず自分の都合に合わせて決められるので私の様に定年退職してちょっとのんびりしながら働きたい人には最適だろう。その分仕事のシフトを考える現場責任者はおそらく夜遅くまで頭を痛めているだろう(笑)。まあ、自由ではあるが皆さん繁忙期は心得ていて、寒いときは冬眠しているが、いざ春になると現場責任者から声がかかるとゴソゴソ出勤してくる。レジェンドたちの啓蟄だ。そしてドンドン仕事をこなしてしまう。

仕事が始まり作業がピークとなる頃の休憩時間は、レジェンドたちのやり取りが楽しい。先日は、とあるレジェンドが「鯉料理は洗いや鯉こくがあるが、焼き物で美味しいのは何か知ってる?」と皆に問いかけ、「???」としていると、その人は「鯉(恋)のささやき(焼き)!」と落としていた。こんなやりとりが続く。ここで一本取ろうと皆家で思案してくるようだ。ボケないだろうなぁ、この人達は。ストレスも皆無だろうな。笑いと人との繋がりがあるのだ。

会話の中に、時折昔の苦労話が出てくる。朝5時に練炭を焚いて作業をした冬の日、不作で十分な出荷が出来なかった年の苦労、サクランボ狩り時の拷問の様な駐車場整理、等々。今は飄々と作業をこなしているが、自分たちが苦労しながらこの果樹園を支えてきた矜持みたいなものがあるのだろう。だから繁忙期になると「さあ、出番かな」と登場するわけだ。地味ながら生きがいでもあるのだろう。自分は身体を動かす生活を維持しようとしてこのパートを見つけたが、やはり桃の苗を植えたり、新しい畑を開墾したりすると仕事への愛着は自ずと湧くものだ。

山梨県の健康寿命が全国トップクラスな要因の一端を垣間見ている様な果樹園の仕事。此処では私ごときはまだまだひよっこであるので、しばらくはこのレジェンド達の中で長生きの秘訣を探ってみようと思う。
7月中旬まで繁忙期が続く。仕事を終えた後のビールが最も美味しい時期がやってきた。

参考:先日97歳の方が営む食堂のYouTubeを見つけた。凄いレジェンドがいたものだ

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