一歩一歩進むことの大切さ・尊さ

人生雑感
<これから苗木を植える畑に肥料を撒く野﨑君>

photo by M.Koseki

農業も人生も「一歩一歩」そして疲れたら休む。そしてこうした味のある後ろ姿になる

 

~農業に携わって過去と未来を考える~

果樹園の洋梨収穫の仕事は一息つき、追熟を待ち出荷・販売へと移行している。それらと並行して、新たな果樹を育てる準備にも取り掛かっている。測量、刈り払い、木々の伐採、石拾い、肥料撒き、開墾を経て、洋梨・和梨・葡萄の苗を植えていく。何年か先には、今年と同じ様な収穫の喜びがあるだろうとの期待と同時に、その何年間をコツコツと継続して苗を世話していく道のりを少し重く感じる。どっしりと根付いたサクランボの木、たわわに実をつけた洋梨棚、そして毎年黄金色に輝く整備された田んぼ、広大なレタス畑、どれも長い年月を経て人々が丁寧に手を入れてきた結果だ。それまでの苦労に敬意を払う一方、自分には気が遠くなる感覚が沸く。

<今年の洋梨は豊作!>
・見てると気分も明るくなる大型の洋梨

photo by M.Yamaguchi

今年は新しい果樹園を開墾するためにいろいろな作業も経験し、人生を振り返り、またこれからを考えるにいい機会にもなった。改めて感じたことは、「気が遠くなるようなことでも一歩一歩進めていけば先が見えてくる」「一歩一歩進むために疲れたら休め」と言う明快なことだ。会社員時代も「一歩一歩」は大切な心構えとして先輩から教えられ実践してきたつもりだ。しかし、やはり会社組織には「一歩一歩」とは相いれない独自の雰囲気がある。これにはなかなか抗えなかった。例えば、一足飛びのとんでもない成果を求められる、徹夜してでも事を終わらせることを求められる(徹夜明けの日は結局生産性を落としてしまう)、忖度した資料を作らなければならない(アホくさい!と思っていても)、等々枚挙には暇がない。ビックモーターや楽天を見ていると、批判と共に半ば理解できる感情も残ってしまう。

<今年、皆で開拓した桃畑候補地>
・雑草、樹木生え放題からここまで整備した

photo by S.Nozaki

農業の場合は、「実り」と言う誰にとっても正しい方向を向いているから、皆の「一歩一歩」の行動が不可欠であり、それが結果に生きてくる。だからこそ、一歩でも進むためにはどうしたらいいか、皆で知恵と工夫を発揮する。例えば、午前中の作業には必ず休憩が入る。これにより、その後の作業効率が維持できる。大体人間が集中力を発揮できるのは90分までだ。無理はしない、でも歩みは絶対止めない。
一方、会社員時代はスケジュールがびっしり詰まっていて、残業が多いと仕事をしている気になっていた嫌いもあった。特に若い頃は。結果、心を病んだ同期もいたし、自分もヤバい時があった。農業の様に、仕事を続けるためのバランス感覚が必要であったとつくづく思う。今はワークライフバランスなんて言ってるけど、ちょっと違うんだよな。バランスオブワークなんだよな、本当に必要なのは。今のワークライフバランスなんて本気で進めてたら日本潰れるわ。

<1年2年木の桃が育成中の畑>
・来年には収穫が期待できる。ここまでも一歩一歩

photo by S.Nozaki

会社員生活も終盤に差し掛かった頃、リーマンショックが起き多くの企業も赤字に転落した。私の在籍していた会社は海外事業をバンバン伸ばしていてリソースが伸び切って拡大に追い付かないと内部から危惧が出ていた矢先の出来事だった。しかし、そんな時にもしっかり従業員を守り事業を育てていた隠れた地方の優良会社がいくつかあり、その中の一つ「伊那食品」の経営理念「年輪経営」なるものを知った。当時の会社の役員がこれまでの拡大経営への反省の意を込めて紹介してくれたものだ。その理念とは『樹木が年輪を刻んでいくように経営も一歩一歩企業を永続的に育てていかなくてはならない。その為の行動規範は凡事継続である』と言うものだ。農業に通ずる点を感じる。日本人は農耕民族だからこう言う経営がどんな時も強みを発揮するのではないかと思う。

<伊那食品 塚越社長の著書>
・こう言う高貴な理念を持ち、かつ実践している

WEBサイトより

いつの時代も革新的な成長や既成概念からの脱却はとても大切なことだが、それらの根底となるもの、つまり一歩一歩ことを着実に進める力がなければ革新も現状打破も成り立たない。学力も、財力も、経営も、そして人生も。八ヶ岳南麓で「農業」に携わり、改めて「一歩一歩」の大切さを思い起こした。自分にはあと何年残されているかは想像もできないが、これからの人生白秋期の基盤に据えたいと思う。やってみたいことは沢山あるし、農業のことももっと知りたい。だから歩みは止めない。だけど続けられるように休みは取る。

<洋梨の選別を真面目にこなしている野﨑君>
・まだまだ覚えることはたくさんある

photo by M.Yamaguchi

さて、お酒も止めないから今日も晩酌の時間とするか。

<農作業の後のビールとおつまみ>
・冷奴の上のミョウガは果樹園の仲間からのおすそ分け

photo by S.Nozaki

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