地名を追う面白さ

プチニュース
<地元の人気なパン屋さん「あつたま製パン」>

photo by S.Nozaki

☆何らかのメッセージがそこにある

南麓の家からスーパー「オギノ」までの道すがら、地元の学校にパンを卸している「あつたま製パン」がある。なかなかの繁盛店であり、併設されている「パティスリー・アツタマ」は大変な人気店である。二度ほど利用し美味しかったことと接客が気持ち良かったことが深く印象に残っている。と同時に「アツタマ」ってちょっと馴染がない不思議な名前だと思っていた。名字にしては聞いたことない。この辺りは大抵、浅川・輿水・高見澤だ。とある日図書館で偶然にも「アツタマ」の漢字の表記が「安都玉」であることを知った。何となく古に思いを寄せる様な名前だ。

更に郷土史をパラパラめくっていると、この高根町は昭和29年に、安都那(あつな)村・安都玉(あつたま)村・熱見(あつみ)村・甲(こう、文献によってはかぶと)村が合併して「高根村」になったのが始まりと知った。そして昭和31年に清里村が合併し、37年に高根町と変遷している。この高根は、八ヶ岳高原に根付いて発展を遂げることを願って命名された。素敵な命名だ。散歩をしていると、安都那郵便局・熱見郵便局・旧JA熱見支社等の高根町以前の地名の名残を見ることが出来る。甲と言う文字もどこかで何度か見かけた記憶がある。

<郵便局に残る昔の地名 「熱見」と「安都玉」>
・村の名前が消えて80年になるけど・・・

photo by S.Nozaki

photo by S.Nozaki

 

以来、今度は「安都」の由来が気になっていた。「熱」も此処からの派生かも知れない。更にあれこれ調べてみるとこの辺りはかなり古い荘園がありその主を「熱那庄」と呼んでいたと甲斐国史に記してあると知った。その「熱那」が「安都那」に転じたらしい。荘園、始まりは奈良時代だぞ。確かにこの辺りは陽当たりが良く水は豊富なため縄文時代から人がしっかりと足跡を残し遺跡も多い。開墾には適した場所だったのだろう。一方で、信濃の「安曇族」が入植してきた名残として「安都」に転じたとの説もある。なかなかロマンに富んでいるな。もう少し調べてみると面白い歴史を紐解けるかも知れない。

因みに、我が故郷「多治見」の由来は、仁徳天皇皇子の養育係「多遅比部(たじひべ)」が各地に住みつき、その一つの地が「多治見」に変遷したとの説がある。多遅比はいたどりの花の呼び名で、皇子が産湯を使う時に風に乗って飛んできてそれ以降皇子の養育する係を「多遅比部(たじひべ)」と呼んだそうだ。まあ、多治見の住民でもある自分は信じておこう。

土地柄や歴史を映し出す鏡の様な地名には昔の人々が「災害に気を付けろよ」と教えてくる名前も多い。有名なのは蛇が付いた名前。土石流の跡が蛇を連想させるからだ。また、東京の渋谷はその名の通り都内では窪地であり水が溜まりやすい。地下鉄銀座線が渋谷に近づくと地上に出ている理由は此処にある。一方、そうした土地柄が全く連想出来なくなったキラキラネームも多くなってきた。○○レイクタウンとか□□ニュータウンとか。今や土木技術が進んで気にしなくても良いのかも知れないが、ご先祖様の思いが載せられた地名は併せて大事にしたいと思う。あの福島第二原発(第一の事故を受けて廃炉)がある樽葉町が「波にえぐられた」を意味する「波倉」と呼ばれていた事を思い出す。古からの「気を付けてよ」とのメッセージだったのだろう。

<地上にある地下鉄銀座線の渋谷駅>
・小さい頃不思議だったなぁ~「地下鉄なのに地上?」

From Website

また、言い伝えが名前に転じる例も大変多い。北杜市の武川地区を以前全滅させた洪水で知られている「釜無川」の名前の由来はいくつかあるが、川が氾濫した時に娘が釜に乗って流されたと言う伝説が最も有名だ。度々の洪水で大切な家財が流され無くなったことを後世に伝える話だと思う。こうした名前を紐解いていくと先人からのメッセージがひっそりと、しかし確かに溶け込んでいることを感じる。

ところで、八ヶ岳の由来は八つの峰があるからと山登りをしている頃は思っていたが、実は峰は八つではない。いろいろ説があって、峰々が多いため、数の多い事を示す「八」をあてたとか、多く(八百)の神がいるからとか、もともとは八雷神を祭る権現岳を「八ヶ岳」と称していたとか・・・。本当はどうであったか今や長い歴史に埋もれてしまっているが、こんな事に思いを馳せるのも楽しいものだ。八ヶ岳に峰が多いのは、大昔、八ヶ岳と呼ばれる前の男神山と高さ比べをして負けた富士山の女神が、悔しがって男神の山をこん棒で叩いて崩れたからとの説がある。これは人間界に当てはまりそうだ。

<女神に粉砕された山の残骸と言われる八ヶ岳>
・「女」と言う字は時代を問わず怖い存在である

photo by S.Nozaki

コメント